2007
都市講座5レポート「個人的な『リスク』を越えて」
テーマ:「都市と経済の合体―横浜モデルの栄光と凋落」
日時:2007年10月23日(火)18:00〜20:30
講師:根本祐二(東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻教授)
司会:小林重敬(横浜国立大学大学院工学研究院教授)
会場:横浜市開港記念会館 講堂
主催:Y-GSA+横浜市
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建築、都市というものを市場経済、投融資という側面から考えることはとても新鮮だった。投資という分野には「リスク」という言葉がある。建築や都市ではなかなか耳にしない、より実質的で、現実的な言葉だ。根元氏の講演の中でとても印象的に残ったのがこの「リスク」という言葉だった。
投融資とは、その地域の将来に対するリスク負担であり、地域の将来像が確かなほど、よりレベルの高い経済活動が誘致できるという。それは地域がどれほどガバナンスされているのか、つまり法律・条例、政治、市民、産業などをパラメーターとした際に、どれほどその地域が安定しているのかを意味する。そして投資する側から見たとき、地域環境が安定していることで、投資に対するリスクが小さくなり、市場価値が高まるということだった。
その実例として、京都市の景観条例が挙げられた。京都では建物の外観、高さ、屋上広告などに関する条例が厳しい。一見すると法的な規制が増えることで、建設可能な建物の範囲が小さくなり、経済活動は弱くなるように思える。しかし、隣の土地にある日突然奇抜な建物が建ち、景観や雰囲気を壊すということがなくなり、その場所に投資するリスクも小さくなることで、市場での価値は高くなるのだ。つまり、自分の投資行動に影響を与えるのは投資対象だけではなく、その周辺環境もまた、大きく影響があるのだという。このように市場経済において、建築という投資対象が、周辺との関係から語られることがとても興味深かった。
しかし、それならば投資を行なった瞬間から、自分自身が周辺環境の一部となることを忘れてはいけないだろう。近年、みなとみらい地区に開発されているマンション、オフィスビルは、周辺環境の一部として自覚されているようにはどうしても感じられない。というよりも、できるだけ建物内で自己完結できるように、周囲から独立しようとつくられている。そこに「リスク」という言葉の限界を感じてしまう。たとえ敷地内ではある程度のリスクを背負ったとしても、それが街区や地域レベルで見た際に還元されるビジョンをつくることはできないのだろうか。
経済的な還元や建築・空間的な還元、人の活動からの還元など、さまざまなアプローチがあると思う。公開空地に対する容積率緩和は、その建築・空間的な答えのひとつと考えられる。しかし現在の公開空地の制度では、ただ建物周辺に空き地が設けられているだけという場合もある。建物と敷地、そして周辺環境の関係に関わる制度が必要であり、もっと色々な可能性が建築や経済の両方から考えられるべきだと思う。
講演の中で話されていた、横浜市によるみなとみらい21地区の「地価固定式」は、経済的な面から考えたビジョンに繋がるように思う。「地価固定方式」とは、横浜市がディベロッパーに土地を売る際に、常に一定の価格で販売する方式のことだ。開発・再開発を通して、ディベロッパーが利益を得るためには、実勢地価と譲渡価格の差がどれほど大きいかが大切になる。つまり土地をできるだけ低価格で購入し、最終的な建物の価格をできるだけ高くすることが必要となる。その差額が質の高い投資、良質な建築を生みだすのだという。
ただ、質の高い投資というものが、結局建物単体の利益の追求だけに終わってはいけない。超高層マンションは良質な居住設備が取り付けられ、セキュリティ・ゲートに囲まれ、確かに質の高いマンションであるのかもしれない。しかし、質の高い投資が周辺環境から独立した自己利益のみにしか働いてないのは、あまりに無責任だ。
確かに建物が周辺環境と関係を持つことは「リスク」が高いかもしれない。しかし、建築が与える周辺への影響は大きく、無視することはできない。だからこそ建築家や都市計画家は「リスク」という消極的な言葉を越えて、実質的な「リターン」の可能性を常に考えていく必要がある。それは単なるエゴや空想ではなく、非常に現実的だけれども、非常に創造的なことだと思う。
(松浦荘太)