横浜建築都市学

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建築講座4レポート「価値観を構築せよ」

テーマ:2008年度建築講座:「共同体としての都市」
日時:2008年7月11日(金)18:00〜20:30
講師:塚本由晴
会場:横浜市開港記念会館 講堂
主催:Y-GSA+横浜市

麦 わらでできたハットに、麻のシャツ。確かなことではないが皮のサンダル。そのような格好で塚本氏は会場に現れた。大学教授的なスーツ姿でも建築家的なギャ ルソン尽くめでもない、どこか開放的で明るくいきいきとしたその姿は、塚本氏のスタンスを率直に表したものであったと気づいたのは、こうしてレポートを書 いているときであった。
本講演会は、塚本氏の設計活動の基本的な考え方であるArchitectural BehaviologyとVoidMetabolismの説明と、実作でのその活用例というシンプルな構造をもって進められた。
ふ るまい(Behavior)とは、原因(Form)と結果(Use)のガチガチではない対応関係であり、繰り返しに耐えられるもので、ふるまい学 (Behaviology = behavior + logy)ではそれを図式化し、Behavior、Use、Form、の三角形を描き、社会的な空間の生産には、それらを対立概念としてではなく三角形を 回すように考えることが重要だと、塚本氏は言う。また、この三角形の頂点にはそれぞれ、アンリ・ルフェーブルが『空間の生産』で示した「実践的空間」「表 象の空間」「空間の表象」が当てはめられていることや、ワークショップ、パタンランゲージも同じ枠組みで捉えることができる(シチュアシオニストのパ フォーマンスやパリの五月革命、ベルナール・チュミのディスプログラミングも同様に捉えられる)など、60年代以降モダニズムーポストモダン、そして現代 まで続く、建築の重要なテーマであるFormとUse(建築学的に聞き慣れた言葉でいうならば形態と機能)の対立に真っ向から取り組んでいることを明らか にする。
続 いてVoidMetabolismについては、60年代日本において構想されたメタボリズムは、不変である強固なコアと取り替え可能なユニットという構成 で、どこか建築家の思想によって社会をコントロールできる幻想が感じられたのに対して、現代日本においては、小さな敷地いっぱいに建てられた建築同士の隙 間(があること)こそが不変であり、その隙間の周りの粒のような建築が新陳代謝し、隙間の性質を少しずつ変えており、その扱いによって都市空間が構想し得 ると説明される。このような都市に実際に起こっている現象から、提言者なきマニフェストを構築し設計へと繋げていくプロセスは、『錯乱のニューヨーク』に おいて、ゴーストライターとしてのレム・コールハースが、マンハッタンで起こった様々なエピソードを羅列することで、過密の文化による建築的ロボトミー、 マンハッタニズムを明らかにし、それを設計手法として用いたのと同様に、非常に現代的な感覚を想起させるものであった。
このように、建築学的な流れの中での自分の位置づけや、現実的な社会との関係を理論的に明確にしながら、実作の紹介が行われたのだが、そうした中で浮かび上がってきたのは、塚本氏個人の非常にいきいきとした価値観、生活の豊かさであった。Architectural Behaviologyにおいて三角形を回すためには、回す主体が当然ながら必要で、そこには極めて主体的な価値判断が必要とされている。また、VoidMetabolismに おいても隙間の性質に主体的な想像力が不可欠だ。アトリエ・ワンの建築に溢れている瑞々しい生活像は、資本の論理によって自動生成される建築でもなく、マ ニフェストとして以上の価値のない建築でもなく、小さな物語に酔狂する施主のための趣味的な建築でもなく、建築学的な理論の変遷も都市的な状況もむしろエ ネルギーとして組み込んで、建築というカタチで主体的に価値観を構築している結果によるものだろう。塚本氏は如何にしてフレームを作り上げるかという点とDelightfullnessが重要だと述べていた。フレームの構築と、それをエネルギーとして巻き込んだDelightfullnessを実現する。そのプロセスから感じる力強さは、建築家としての塚本氏の価値観によるものである。現代を生きる建築家としての価値観を、如何に構築し得るか?それが、問われている。
(橋本健史)

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