テーマ:「建築の新しさとは何か」
日時:2007年4月13日(金)18:00〜20:30
講師:伊東豊雄(建築家)
司会:山本理顕(Y-GSA校長)
会場:横浜開港記念会館 6号会議室
主催:Y-GSA+横浜市
建築には元気がいる。徹夜で図面を引いて模型をつくるのにも元気がいるし、体験して元気がもらえるような建築が、良い建築だと思う。そんな建築を自分たちでつくることができるなら、模型をつくる元気は自然と出てくる。
建築講座の第一回で伊東先生は「生命力に満ち、活き活きとした楽しい建築をつくりたい」と述べられた。元気で真っ直ぐな言葉だが、そうした建築はどのような美学によってつくられるのだろうか。そして今の社会にとって、どのような価値を持つのだろうか。当日行われた近作の設計プロセスの紹介と山本校長との対談のなかから、伊東建築の「肝」を見ていきたい。
■近作紹介
洞窟のイメージ〈多摩美術大学図書館〉
スタディの初期段階では、敷地いっぱいの地下一層で森と建築が混ざり合った案もあったが、大学側の要望と合わず、地上2~3階でのスタディとなる。伊東先生は、地下から地上に上がる間のプロセスでの「地上に上がった洞窟のイメージ」が、連続したアーチの建築形式の発端であると説明した。
以前は「風」などといった、軽やかなイメージの建築を提案してきた伊東先生が、今度は一転「洞窟」という一見重たそうなイメージを描かれたことが興味深い。洞窟という言葉は、洞窟をつくり上げている土の塊を指すのではなく、土の塊の間にできた空ろな空間を意味する。その空間に人間の動物本能に訴えかけるものがあるのなら、その周りの土の重たいイメージは、伊東先生にとってはあまり重要なことではないのかもしれない。
それでは洞窟のイメージとはどんな空間なのか。そしてなぜアーチの建築形式に進化したのだろうか。しかしながらその疑問は、私たちが実物を体験したときに、みずからの身体に聞いてみるしかない。今の伊東先生はそういった建築をつくっているのだと思う。
建築の形式〈ゲント市文化フォーラムコンペ案〉
海中でうねるサンゴ、それとも脊椎動物の骨盤だろうか。複雑で生き物のような形態を持つ案であるが、なぜこのようなかたちになったのだろうか。
敷地はゲントの街なかを流れる川が蛇行する内側に位置し、街の様々な方向からアプローチすることができる。そこで、コンサートホールという複雑なプログラムが、ストリートライブのように都市に開かれた使われ方のイメージを保ちつつ、同時に「洞窟」という空間のイメージをいかに建築の形式に落とし込んでいくかがスタディの焦点となった。スタディは難航したが、全体のボリュームをふたつの洞窟に立体的かつ複雑に分節するという建築形式が編み出された。
〈せんだいメディアテーク〉以降、伊東建築のひとつの特徴として、建築形式と構造システムの一致がある。この案は奇抜な形態ばかりが注目されがちだが、都市に対する視点と使われ方の視点、そして空間のイメージが、構造システムに統合されているからこそ、建築形式としての強さを獲得しているのではないだろうか。
建ちあがる強さ〈台中メトロポリタンオペラハウス〉
ゲントでは惜しくも二等に甘んじたが、その建築形式に可能性をみた伊東先生は、台中のオペラハウスのコンペでゲントの形式を踏襲した案で再チャレンジをし、勝利する。スタディは実施設計の段階に移行し、伊東先生のスライドからは、その新しさゆえの苦しみが垣間みえた。
実施にあたって立ちはだかるたくさんの問題は、往々にしてコンペ提出時のイメージを変えてしまう。しかし〈せんだいメディアテーク〉の時のように、さらに新しい発見としての建築が建ち上がることを期待したい。
ゲントと台中がそうであるように、伊東先生の作品には同じ建築形式を持ったものがほかにも挙げられる。〈TOD's表参道ビル〉と〈武蔵境新公共施設〉のコンペ案などである。同じものの使い回しという批判もあるが、伊東先生は、場所は異なっても持つ強さを建築の形式に求めていると言う。部分的ではあるが、世界中で同じ形式の建築を建てた近代建築の思想に通じる考え方を見せている。
■対談
「人間のための建築」
作品紹介後の対談のなかで山本校長は、「建築の新しさは何のために向かっているのか」との質問を伊東先生に投げかけ、「建築の新しさ」の社会における価値について議論された。多くの言葉が交わされ、議論が行われたが、伊東先生の「人間のための建築ではないと」という言葉が印象的だった。それは今の建築、特に日本の建築の納まりの良さや、見た目の美しさを目的化していることに対する批判であり、建築の主体は人間にあるべきという主張であった。それは近代が描いたような抽象的な人間像ではなく、血の通った生々しさを持った、動物としての人間のための建築。本来ならば当たり前のことが、伊東建築の根っこにはある。
伊東先生の挑戦の姿勢が感じられ、元気の出るレクチャーだった。伊東先生は若い建築家や学生に、期待を込めてメッセージを送っている。
「新しい建築をつくるために」
1. 変革の志を持て
2. 討論せよ
3. 五感で考えよ
4. テーマを一言で語る習慣を身につけよ
5. 自らのアイデアを常に捨てる勇気を持て
6. 素直であれ
7. ここぞという時の集中力を養え
伊東先生はこの7つで、建築に正面から立ち向かうための姿勢を示している。自分は果たして建築に向き合えているのか、時々この7つのメッセージで確認してみたい。